子供が発達障害である自閉症スペクトラム障害と診断されたばかりの頃は、なんとかしてこの障害を治して、普通の子供と同じ人生を歩ませてあげたい、親はそう思うものです。
その思いとは裏腹に、いつも感じていた子育ての違和感は、自分の育て方のせいではなかったと安堵したのではないでしょうか。
私も同じ思いを持った時間を過ごした過去があります。自分の子は普通の生活は送れないんだ、と涙を流したこともあります。
しかし、子供との毎日の生活は泣いていても始まりません。
意を決して前向きに生きていくために、自閉症スペクトラムの勉強をし、発達障害の本を読み、情報収集をした結果、自分がある種の偏見にとらわれていたことに気づきました。
今回は、自閉症スペクトラム障害の原因について、そして「障害」に対する考え方について、困っている方の参考になるような情報をご紹介します。
発達障害の子育てに悩んでいる方、自閉症スペクトラム障害の子供の将来が不安な方の心が、少しでも軽くなり前向きになるきっかけになればうれしいです。
自閉症スペクトラム障害は病気ではないので「治る」ものではない

自閉症スペクトラム障害を含む発達障害は、病気ではないので「治る」という概念ではありません。よって、治るのか?と聞かれたら「治るというものではないと思う」としか答えます。
自閉症スペクトラム障害の基本的な知識についてはこちらを参照ください。
自閉症の症状(病気ではないので変な表現になりますが)も人それぞれ違っています。それは、私達人間が1人1人違っているものと同じです。
では何が違うのかというと、脳機能がうまくつながっていない、連携されていないなど、生まれつきの脳の機能的な関係で、言動や行動がその他大勢の人と違っているということです。
ASD(自閉症スペクトラム障害)の原因

自閉症スペクトラム障害の原因は、現段階ではまだはっきりとは解明されていないようです。
自閉症の原因はまだ特定されていませんが、多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる、生まれつきの脳の機能障害が原因と考えられています。胎内環境や周産期のトラブルなども、関係している可能性があります。親の育て方が原因ではありません。
e-ヘルスネット 自閉症について/厚生労働省
遺伝の可能性
遺伝的な要因が関係しているという説がありますが、はっきりと解明されていないことは確かなようです。
自閉症スペクトラム障害について、とてもわかりやすく読みやすいサイトがあるのでご紹介します。
この障害の原因には、遺伝子、バイオマーカー、脳内物質の関与など様々なものが指摘されていますが、はっきりしたことはわかっていません。
ー中略ー
ざっくりした概念で見ると、「脳に微細な異常がある」ことから障害がおこっていることが想定されています。それは後でおこった事故などによる異常ではなく、生まれ持ったものと推定されています。
広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)/こころみ医学
やはり脳の神経のつながりが、その他大勢の人とは違うことが原因となっているようです。
生活環境の可能性
自閉症スペクトラム障害になる原因として、生活環境の可能性はありません。生まれつきの脳機能の問題であり、環境で自閉症スペクトラム障害になるわけではありません。
ただし、親が子供の障害を理解し、配慮をする環境としない環境では、子供の症状など現れ方に差がでます。診断にこだわる必要はないと思いますが、子供の特性に気づき、療育を含めた理解や配慮ある対応をすることで、子供の二次障害を防ぎ自閉傾向が目立たなくなる場合もあります。
長男の自閉傾向もかなり落ち着いたので、成長とともに親である私も長男の自閉症のことは忘れていることが多いです。子供により差があるとは思いますが、そのくらい変わっていくこともあります。
親のしつけの可能性
自閉症スペクトラム障害や発達障害は、親のしつけが悪いからなるのではありません。最近では親のしつけが悪いせいで自閉症スペクトラム障害になっていると考えている人は少なくなっているでしょう。
発達障害の診断前の親が「親のしつけが悪い」と責められることが多い
親のしつけ問題は、まだ自閉症や発達障害だと診断される前に、「親のしつけが悪くて子供がこうなっている」と言われてしまうことが多いです。
冒頭でも触れましたが、そのような社会環境に身を置いている方にとって、子供が自閉症を含めた発達障害であると診断されることは、自分のせいではなかったと安心できるきっかけでもあります。
子供のためを思って育て、しつけをしている親にとって、意志の疎通すら難しい自閉症の子育ては先の見えないトンネル状態。
家族や実親、義両親、親戚や近所の人などに「親のしつけが悪いのね」と言われ続けることで、本当に自分のせいなのかもしれないと思い詰めてしまう親も少なくありません。
親のせいではないので、思い詰めてしまっている場合は、専門家に相談してくださいね。
自閉症スペクトラム・発達障害という「障害」の考え方

近年では発達障害という言葉の認知度も広がり、いろいろとうまくいかない人達がいるんだということが知られてきています。
精神障害は、脳および心の機能や器質の障害によって起きる精神疾患によって、日常生活に制約がある状態をいう。
ATARIMAE PROJECT 教えて!障害のこと 第1回 障害、基本の「き」/障害者雇用支援総合ポータルサイト
※補足:発達障害は精神障害に含まれます。
脳機能がうまくいかないことによって、社会生活の何かしらに支障が出てしまうことで「障害」となっているのですね。
確かに、自閉症スペクトラム障害を含む発達障害の子供や大人は、その他大勢の人とは違う脳のしくみを持つことで、コミュニケーションや社会生活がうまくいかず、困っていることは確かです。
「障害」と名がつくことで劣等感を感じてしまう
自閉症スペクトラム「障害」、発達「障害」など、「障害」と診断されることで親は劣等感を抱いてしまうことがあります。
障害は、本人は関わる人達が大変な思いをしたり苦労したりすることはありますが、障害自体が何か悪いということではないですよね。
困ることはありますが、障害であろうがなかろうが、子供は子供。自閉症スペクトラム障害の特性があって、強いこだわりを持っていたとしても、コミュニケーションがうまくとれなくても、本人が本人であることにかわりはありません。
そして健常と呼ばれるその他大勢の子供達も、困ることはたくさんあります。条件は同じ、ということです。
我が子が「普通ではない」ということに絶望感を抱いてしまう
大切な我が子が「普通に生きてはいけない」「普通の子供とは違う」と思ってしまう「普通」とは、一体何なのでしょう。
普通(ふつう)とは、広く通用する状態のこと。普通の『普』は、「あまねく」「広く」を意味する字である。
普通/ フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
普通とは、その他大勢の人と同じであるということを意味すると思うのですが、世界中の人間全員が全く同じく生きるはずはありませんよね。
子供は1歳あたりで歩き始めますが、9カ月で歩き始める子もいれば、1歳6カ月で歩き始める子もいるわけです。発達の目安として、大体1歳あたりとなっているだけ。
もし、うまれつき神経のつながり方に違いがあるなら、その後の発達や神経回路、使われる脳の違い、それらの違いからくる運動神経などの違いは、神経の末端になればなるほど差が出てきてもおかしくはないですよね。
発達障害はマイノリティ(少数派)であるだけで劣等感に感じる必要はない
自閉症スペクトラム障害は、生まれつき脳機能がうまくいかないことによっておきる障害です。
であれば、その時点で一般的な発達の目安とは違う、その子本人の発達があるということになりますよね。他の子供と同じであることは、ある意味、安心できる材料になりますが、そもそも人は皆、違うのです。
自分の子供はその他大勢の子供とは違うタイプの子であるというだけのことです。
その他大勢が正しいわけでもないですし、優越しているわけでもない。周りの子供達はこんな感じだけど、うちの子はこんな感じ、と分けて考えれば良いのです。
さらに言えば、その他大勢の子供達も、1人1人発達が違っているはず。大きくズレが生じないので目立たないだけで、歯の生え変わりなどは差が出ても誰も気にしていませんよね。
「そんな!」と思うかもしれませんが、歯の生え変わりに個人差があり、矯正する人としない人がいることと、生まれつきの神経のつながりに差があることは、同じようなことです。
自閉症スペクトラム障害だからといって特異的な才能を感じられなくても良い
テレビなどで発達障害のことが報じられるようになると、自閉症スペクトラム障害や発達障害の子供を持つ親は、「すごい才能があるんでしょ、うらやましい」と言われます。
びっくりする程の勘違いと認識の浅さに、驚きすぎて返す言葉がありません。
人間、2人として同じ人はいないんですけどね。なぜ、人はこんなにも簡単に情報を鵜呑みにするのでしょう。
テレビで報道されている方達と私達の子供は違う人間です。発達障害だから、自閉傾向の特性があるから=才能があるわけではないのですけどね。
いえ、才能はあるのかもしれませんが、子供の親もまだ才能に気づいていない(できない地獄に追い込まれているため)か、親子とも気づく余裕がないくらい切羽詰まっているかもしれません。
自閉症スペクトラム障害の特性だからこそできる適材適所があるはず
自閉症スペクトラム障害は、その特性から社会的に「できない」とされることが多く、不用意に責められてしまう機会が多くなってしまいます。
大人がうまく気づけないと、二次障害になってしまい、さらに人や社会と関われなくなり、メンタルに影響が出る事もあります。
相手の表情を読み取ることが苦手な分、声のトーンの違いをその他大勢の人よりも聞き分けることができたり、空気が読めない分、周りの嫌な空気感に悪い影響を受けることなく、興味関心に没頭できる。
その他大勢の人達ができないことを、自閉症スペクトラム障害の特性を持つ子供ならできますし、発達障害などのマイノリティの人には出来るんです。
社会はこの法則にあまりにも気づいていないと思います。
だから、学校には通級があり、発達障害の子供達を社会のルールに合わせて生きていけるよう指導します。
通常クラスの子供にも必要な道徳的な通級の授業を、通常クラスの子供が受けることはありません。常に通級に通う発達障害の子供達が、その他大勢の考え方や行動に合わせていかなければいけません。
そうしないと生きてはいけないと、間接的に教わっているように私は感じ、長年、通級指導に疑問を抱いてきました。
その他大勢の人達ができることを、自閉症スペクトラム障害や発達障害の人ができないと、できないと責めるのに対し、その逆を発達障害の人達は責めませんよね。
理由は簡単です。
- 人数で負けるから
- 発達障害の人達がやりたいことは人を責めることではないから
みな、それぞれにやりたいことがあり、没頭できることがある。好奇心や興味関心を突き詰めていくために時間を使いたいので、他の人達に合わせている暇がないのです。
そして、そうやって、人に流されず自分の世界を貫く事で、新たな発明やアイディアを世の中に生みだし、発達障害に理解ある人達と支え合いながら今まで命をつないできているのでしょう。
自閉症スペクトラム障害の原因が、何かしらの遺伝に関係しているのであれば、人間という種の保存に必要だからこそ、今も続いてきているのですから、親も子も、引け目など感じることなく、堂々としていて良いと思うのです。
振り返り|自閉症スペクトラム障害の特性がある子供だから社会のためにできることがある

ルールを守り、真面目に頑張る自閉症スペクトラム障害の子供達を「変だ」「言葉が通じない」「空気よめない」などと平気で冷やかし、中には言葉巧みにひどい言葉を自閉症の子供に投げかけ、怒らせ、喜んでいる子もいます。
人間、いろんなタイプの人がいますから、そのようないいとは思えないような行動や言動をする子供や大人もいるでしょう。
自分の得のためなら人を落とせる人もいますし、お金のためなら人や情報を売る人もいるでしょう。
一概には言えませんが、人の気持ちの理解が苦手な自閉症スペクトラム障害の子供達は、その他大勢の子供達にやられてしまうことがあるかもしれません。
しかし、それでも自閉症スペクトラム障害の子供は自分の世界を貫くことで社会とつながっていくでしょう。人を攻撃して喜んでいる人達を横目に、自分の興味関心を深く掘り下げていくでしょう。
もちろん、自閉症であっても発達障害であっても何かしらの障害であっても、人から責められているばかりの人生ではありませんし、理解ある人の中だけで生きていく人もいるかもしれません。
要するに、自閉症スペクトラム障害の人達にしかできなことがある、ということです。同時に、他の人達1人1人にもその人にしかできないことがあると思います。
「障害」と名は付いていても、条件は同じ。
さらにその他大勢の人達が人の感情に流され、周りに流されて自分を見失ってしまう時間があっても、自閉症の人は流されないでしょう。
それがいいか悪いかは別として、人類みんなが同じ方向に行きすぎないようになっているのかもしれませんし、そうやって地球上のいろんなバランスが取れているのかもしれません。
だから、自然も生き物もみな、パズルのように、陰と陽のように、できることとできないことがくっつき合っていることを、支え合っているのではないでしょうか。
だから、自閉症スペクトラム障害であることは、劣等でもないし悪いことでもない。障害の名前が何であれ、原因が何であれ、あなたの子供である、ということに変わりはないということです。
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